鞭を縄梯子に変えて、はぅ、と、小さく息をついた瞬間…
「!? って、どういう鞭なんっすか? ターフェアさんって、確かアームメイトのブレスレットについていた名前でしたよねぇ?」
明らかに動揺したガイロードを見て、ルチルは思い出す。
そういえば…ターフェアについて、何も説明していなかったことを。
「あ…そういえば…」
(肝心なところで、抜けているのですから…)
ぽつりと響いた思念に、今度こそ呆れの色を感じ、ルチルは何も言えなくなる。
「えっと、ですね…」
かと言って、説明するのも大層難しい。ルチルは、傍らに置かれた藤の苗木に向かって、呼びかけた。
「ターフェアさん…出てきてください」
傍から見ると、苗木に話しかける変な人であろう。しかし…
(まったく…仕方がないですね)
珍しく、ターフェアがそれに応えた。
藤色の長い髪、同色の瞳。どこか異国風の衣装に身を包んだ半透明の女性が、ルチルの傍らに現れた。
「えっと…改めて紹介します。
彼女が『ターフェアさん』で…藤の木に宿る、精霊…ですか?そういう存在です」
(何ですか、その言い方は)
ターフェアの思念を流して、ルチルは続けて腕をまくる。いつもはそこにある藤蔓の腕輪がそこにはないことを見せた後、縄梯子を目で指して…
「それで、これは、元は腕輪だった藤の蔓で…ターフェアさんの一部です」
上手く説明できたかな? と、首を傾げ、ルチルはガイロードの返答を待った。
「なるほど…ようするに、ターフェアさんは藤の木の精霊で、今回植え替えるのがその本体。ルチル君が普段腕にしている藤蔓のブレスレットはターフェアさんの本体の一部で、ターフェアさんの力を借りる媒体になっている…ってな所っすか?」
(あら、凄いわ。ルチルのあの説明で、理解できるなんて…)
ターフェアの思念に、酷い、と思いはしたものの…確かにその通りである。ルチルはガイロードに小さく拍手を送りつつ、頷いた。
「そうです…。ブレスレットがあれば、ある程度はターフェアさんの力も借りられるんですけれども…本体から離れるには、時間制限があるみたいなんですよね…」
本来の目的はどこへやら、ついつい考え込みそうになるルチルに、ガイロードが声をかける。
「あ、遅くなる一方ですから、作業進めながらお話しやしょうや」
「…っと。そう、ですね…。じゃあ、始めましょうか…」
「っと、その前に」
慌てて縄梯子を登り始めるルチルの後ろで、ガイロードはターフェアに向き直る。
「ターフェアさん。先日ルチル君とお話させていただいた、ガイロードと申しやす。今日は引越しのお手伝い、させて下さいな」
まるで人間にするのと同じように、頭を下げて挨拶をするガイロードを見て…ターフェアは、淡く微笑んだ。
(こちらこそ、よろしくお願いしますね。
そして…ルチルと出会ってくれて…ありがとう)
そして、ターフェアはガイロードに一礼を返す。
この思念が届かないとわかっていても…ターフェアは、ガイロードにお礼を言いたかったのだ。
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